食卓にならぶお皿が、実はお米からできている――そんな食器づくりに挑む石川県の食器メーカー・株式会社TSAさんを訪ね、お話を伺いました。本来なら捨てられるはずだったお米を生かし、そこに地元・山中の漆器の技術を重ねる。「お米」「アップサイクル」「山中塗」という一見バラバラな要素が、一枚の器の上でやさしく溶け合っていました。特に印象的だったのは、環境の話を難しく語るのではなく、「この食器はお米でできています」と、誰の心にもすっと届く言葉で伝えようとする姿勢でした。

Interview

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

まず、御社の食器について教えてください。

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

弊社のオリジナル原料「RiZAST」を使った食器です。バイオマスマーク50を取得していて、原料のおよそ30%に、食べられなくなったお米を練り込んでいます。そのうちの一部には、石川県産のコシヒカリも使っています。植物由来の素材を半分以上使っているので、燃えるゴミとして処分でき、CO₂の排出も抑えられるんです。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

お皿一枚に、それだけのお米が入っているんですね。ちなみに、なぜ「お米」だったのでしょう?

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

貝殻やコーヒーの搾りかすを使った食器も世の中にはあります。でも、「ホタテの貝殻で作りました」と言われても、どこか使いづらさが残ると思うんです。その点、お米は日本人にとって一番身近な存在ですよね。日本人が一番身近に感じるものでこそ挑戦したい、という思いでお米を選びました。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

たしかに、お米だと手に取りやすい感じがしますね。どんなお米を使っているのですか?

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

米不足で話題になったのを覚えている方も多いと思いますが、その裏では、粒が小さくて選別ではじかれてしまうお米や、賞味期限を過ぎて食用にできなくなったお米が、毎年たくさん行き場を失っています。何年も寝かせて、結局は食べきれずに捨てられてしまう。本当に捨てられるはずだったお米を、器として蘇らせているんです。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

まさにアップサイクルですね。お米を使うことは、農家さんにとっても意味がありそうです。

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

そこは大切にしているところです。一度お米づくりをやめた田んぼは、土をよみがえらせるのに4〜5年かかると言われます。「今年やめて来年また」とは簡単にいかない。それでも採算が合わずに離農してしまうケースもあります。私たちは「食用ほど厳しく管理しなくていい、工業用のお米でいい」というスタンスなので、農家さんの負担が軽くなり、行き場のなかったお米が新しい収入源になる。田んぼが守られれば、それは里山の保全にもつながっていくと考えています。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

一枚の食器の背景に、田んぼの風景が続いているんですね。もう一つの特徴が「山中塗」だと伺いました。

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

はい。この地域は山中漆器が盛んな土地なんです。私たちは、その塗りの技術を生かせる素材づくりから開発を始めました。普通のプラスチックだと塗装がのらなかったり剥がれてしまったりするのですが、密着性の高い独自素材を自分たちで作ることで、山中塗ならではの深みのある仕上げができるようになりました。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

素材から自社で開発されたんですか。

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

そうなんです。金型づくりから成形、山中塗の塗装まで、すべて自社でできる。全国的にも珍しい体制だと思います。塗りを施すと、お米由来ならではのやわらかい風合いが出るんですよ。中には「外側だけ塗って、内側はそのままにしてほしい」と、お米の素地の質感を楽しまれる方もいます。塗り方一つで、器の表情はいくらでも広がっていきます。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

伝統の技と新しい素材の出会いですね。一方で、届けるうえでの難しさもありますか?

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

正直なところ、価格が少し高めになりますし、機能面のハードルもあります。安くて便利なものが市場にある中で、一般の消費者の方にはまだ価値観が追いついていない部分がある、と感じています。ただ、SDGsに力を入れているホテルや企業さんからの評価は高くて、実際に県内のラグジュアリーホテルや高級旅館様にご検討いただいています。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

環境を大事にしたい人にとっては、また別の価値がありますよね。今後はどう広げていきたいですか?

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

まずは「知ってもらうこと」が最優先だと思っています。だからSNSでの発信に力を入れています。素材のストーリーはたくさんあるのですが、全部を丁寧に語ると、聞いている方がお腹いっぱいになってしまう(笑)。だから、まずは一番わかりやすい入り口から。「この食器の半分は、お米でできています」――そんな一言で、多くの方に届けばうれしいです。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

最後に、この取り組みの広がりについて教えてください。

田中将平
田中将平株式会社TSA 副社長

石川県産のお米から始まりましたが、今は他の地域のお米にも広がりつつあります。たとえば青森のお米屋さんから「青森県産米を使ったカップを作りたい」というお話をいただいたり。「ご当地のお米 × 食器」という掛け合わせで、それぞれの土地の物語を器にのせていけたら面白いなと思っています。

米田貴昭
米田貴昭環境ジャーナリスト

インタビューありがとうございました!


捨てられるはずだったお米が、職人の手を経て、食卓のやさしい主役になる。株式会社TSAさんの器は、環境や地域への想いを、押しつけがましくなく、そっと日々の暮らしに差し出してくれます。ご興味のある方は、ぜひSNSなどで最新情報をチェックしてみてください。

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